房州の名山・伊予ヶ岳の麓にある神照寺。ご詠歌にある伊予ヶ岳は、夕日がいつまでも照り映える、雨乞いの山としても知られています。
神照寺は今でも並んで立つ平群天神社の別当寺でした。山号を朝日山といい、ご詠歌の冒頭はこの山号を詠み込んだものと思われます。
開山の正確な時期は不明ですが、文和2年(1353)に平群天神社が細川相模守によって京都北野天満宮から勧請されたとき、その本地仏である十一面観音菩薩像が安置されたといいます。
天神社境内の奥に建つ観音堂にあるご詠歌額は、享保15年(1730)の奉納。梵鐘も同年に新鋳されたものです。
明治の廃仏毀釈までは神照寺の住職が天神社を管理していましたが、明治5年(1872)に廃寺となり、近くの泉龍寺に吸収合併されました。観音堂と十一面観音像は泉龍寺の管理の下、現在に至ります。境内には天保14年(1843)建立の「南無遍照金剛」の弘法大師供養塔があります。
観音堂への入口となる神社参道には、市の天然記念物である夫婦クスノキと呼ばれる巨樹がそびえ立っています。手前は「女木」で樹高15メートル、神社寄りが「男木」で樹高25メートルあり、千年前に地元住民が植えたと伝えられています。
飛騨の匠が作ったとされる観音堂には、ある伝説が。お堂に火災が起きたとき、装束姿の神童が出現。金の扇を開いて払ったところ、火はたちまち消えたのだそうです。お堂の西の垂木にその焼跡は残ったといいます。
天狗伝説も伝わる地・伊予ヶ岳のふもとの当寺で、平九里の伝説に思いをはせてみてもいいでしょう。