館山から白浜の長尾橋に抜ける県道86号線を行き、岡田口バス停で右に入ると昔ながらの風情をたたえた谷津田が広がります。小網坂と呼ばれる急坂を登ると、小網寺本堂の大きな瓦が現れます。
小網寺は和銅3年(710)の創建で、古くは大荘厳寺と呼ばれました。行基、良弁、弘法、慈覚大師などが来山し、弘安5年(1282)には密教修行の道場として、「安房の高野山」といわれるほど栄えたとのことです。
その後荒廃するも、文明年間(1469~1487)に宗秀上人が中興開山して再興。里見氏からは15石、江戸幕府からは25石の寺領を与えられ、西岬や神戸地区を中心に33の末寺を抱えていたとのこと。
参道の入口には寺号碑があり、これは大正13年に西光寺と合併した記念に建てられたもの。
仁王門をくぐると苔むした急な石段があり、その上に明治初期の古い建物である観音堂があります。
本尊の聖観音立像は館山市の有形文化財。繊細で美しい弧が特徴で、12世紀ごろの平安後期の藤原様式を示しています。
本堂の前にかかる梵鐘は、国の重要文化財。弘安9年(1286)に鎌倉の名工である物部国光が製作したものです。伝説によるとこの鐘は、近くの平砂浦海岸に打ち上げられたもので、撞いてみると響きが「小網寺へ」と聞こえたので寄進されたとのこと。この鐘の音は、ご詠歌にも詠まれています。
本堂向拝にある見事な彫刻は、安房の名工・後藤義光の作品。また、堂内には享保15年のご詠歌額とともに、和讃の額も。
見どころの多い、山間に建つ古刹です。