真勝寺にはある伝説が伝えられています。奈良時代中期(710~794)、聖武天皇の時代のこと。国分寺建立の詔勅を発したとき、厄年だった光明皇后がご懐妊に。安産祈願のため二体の如意輪観世音像を行基菩薩が彫り、一体を帯解寺(奈良県今市町)の本尊とし、もう一体を難産に苦しむ女人を救済するために立田川に流しました。ある日、村人が海中に光を発見。村人・青木真勝が船を沖に漕ぎ出して海藻から引きあげてみると、観音像が現れたのです。
それは行基が立田川に流した如意輪観世音像でした。驚いた真勝は、海中から引き揚げたこの観音像を岩峰山に奉安しました。
全国行脚していた行基からこの話を伝え聞いた聖武天皇はいたく感銘され、岩峰山真勝寺の勅号を下されたといわれています。
如意輪観音は6つの手を持ち、安産・火除・厄除の観音様として信仰を集めており、当寺にはいまも安産の絵馬が数多く奉納されています。
現在は南房総市役所の駐車場に隣接している真勝寺。二本の石の柱が立った門をくぐると、ピンクに咲いた桃の花が参拝者を迎えてくれます。参道の右にひとつお堂があり、その奥に急な階段があります。その階段を上がりきると、正面の崖に洞窟が掘られ、仏像が安置されています。
左手には如意輪観世音を本尊とする本堂があります。本堂は永禄年間(1558~1570)に兵火により焼失。関東大震災でも倒壊し、現在の建物は昭和5年に再建されたものです。
樹齢600年、幹の周囲が3メートルほどの犬槙もそびえる真勝寺。境内の配置がなかなかユニークで、印象に残る禅刹といえるでしょう。