JR安房鴨川駅の南、「石見堂下」バス停から、いかにも漁師町らしい細い坂道を登っていくと、数軒の民宿に挟まれるようにして石見堂が現れます。
当初は西浜の海面に浮かぶ岩山にあったという石見堂。天保年間(1830~1844)に現在地へ移されたといいます。現在のお堂は明治15年に再建されたもの。現在は半キロほど離れた金剛院の境外仏堂になっています。
ご本尊は真言宗の六観音のうちのひとつ、如意輪観世音菩薩。天上界を担当する観音菩薩です。如意輪観世音像は右手を頬にあてて考えるポーズをとっており、煩悩を破壊する仏法の象徴とされる如意宝珠を持っています。戦時中には、艦砲射撃を避けるべく近所の女衆のリヤカーに乗せられて、10㎞先の山中にある白滝不動まで疎開したそうです。
2代目武志伊八郎信常のものとされる、向拝の龍彫刻も見事です。
境内には磯村の医師であり常盤連を主宰した俳人・尾崎鳥周の句碑や、寛文12年(1672)建立の庚申塔などがあります。
ご詠歌に「船に宝を積むぞ嬉しき」とある通り、鴨川の漁港にほど近い場所にあり、お堂の周囲には古くからの漁民の暮らしぶりが色濃く残っています。安房国札三十四ヵ所のご詠歌では、海や波を描いたものが多いですが、海に最も近い観音堂はこの石見堂かもしれません。
丘の上に建つ観音堂の眼下には大海原が広がり、鴨川漁港が見渡せます。また鴨川松島と呼ばれる島々を見渡せる眺望は素晴らしく、ご詠歌の気分を爽快に満喫できるでしょう。